スレート屋根の踏み抜き事故、工場の屋根調査前に知っておくべきこと
はじめに ── 「屋根に上れない」という現実

「雨漏りがしているのはわかっている。でも、スレート屋根に人を上げるのが怖い。」
工場や倉庫を管理されている方から、こうした声をよく耳にします。台風や経年劣化によって屋根のトラブルは確実に進行しているのに、屋根上の安全が確保できないため、調査・点検に踏み切れない。このジレンマは、決して珍しいものではありません。
スレート屋根は、高度経済成長期以降に建設された多くの工場・倉庫で使用されてきた屋根材です。しかし、施工から30年・40年が経過したスレートは、酸性雨や日射熱による劣化が進み、人が乗っただけで崩れる危険な状態になっていることがあります。 まず、その現実をデータとともに確認してみましょう。
スレート屋根の踏み抜き事故 ── 数字が示す深刻さ
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所の調査によれば、平成18年から平成27年の10年間で、スレート屋根からの墜落死亡災害は145件にのぼります(出典:「波板スレート屋根工事における墜落災害の防止」労働安全衛生総合研究所・全国建設業労災互助会)。
この145件を分析すると、いくつかの重要な事実が浮かび上がります。
墜落原因の94%が「踏み抜き」
崩壊・外れ・倒れ込みなど他の原因を合わせても、圧倒的多数が踏み抜きです。スレート屋根は、劣化が進むと人の体重を支えられなくなります。
改修・補修工事中が全体の50%(73件)
新築工事や解体工事よりも、改修・補修工事中の事故がもっとも多い。「ちょっと確認するだけ」「雨漏り箇所を探すだけ」という軽い気持ちで上った屋根で起きているのです。
「調査・点検・見積もり等」だけで10件(約7%)
この数字は特に注目すべきです。工事作業中ではなく、調査・点検・見積もりという段階での死亡事故が10件起きています。「どの程度傷んでいるか見てみよう」という行動が、命取りになり得るのです。
落下高さは5m以上が68%
5m以上10m未満が49%、10m以上が19%。工場・倉庫の高さを考えると、墜落はほぼ致命的な結果をもたらします。
また、厚生労働省が公開している事例(出典:「スレート屋根の踏み抜き災害をなくしましょう」厚生労働省)には、以下のような実際の事例が記録されています。
- 【令和元年9月】台風15号により工場の屋根に穴が開き雨漏りがしたため、管理職が工場棟の屋根上に上って点検を行っていたところ、スレート屋根を踏み抜いて高さ約5.7メートル下のコンクリート床に墜落し死亡。
- 【令和元年7月】工場のスレート屋根に設置されたルーフファン(煙突)を塗装する作業を行っていた労働者が、スレート屋根を踏み抜いて高さ約14メートル下のコンクリート床に墜落し死亡。
- 【平成29年7月】工場のスレート屋根を補修する作業を行っていた労働者が、休憩を終えて作業箇所に移動していたところ、スレートを踏み抜いて約4メートル下のコンクリートの床に墜落し死亡。
「移動中」「休憩明けの移動」という状況でも起きており、特別な作業をしていなくても、踏み抜きは起きます。
なぜ、スレート屋根の踏み抜き事故は起きるのか?
スレート屋根は、製造当初は十分な強度を持つ建材です。しかし、年月とともに以下のような劣化が進行します。
酸性雨による風化:表面が溶け出し、内部のセメント質が脆弱化します。見た目は変わらなくても、強度は著しく低下しています。
日射熱による挙動:昼夜の温度差により、スレートは膨張・収縮を繰り返します。この繰り返し応力がひび割れを誘発します。
経年による脆化:旧来のスレートにはアスベストが使用されていましたが、ノンアスベスト製品は強度面で課題があり、20〜30年を経過したものは相当の劣化が見込まれます。
問題は、こうした劣化が外見からは判断しにくいことです。表面の塗装が残っているように見えても、内部はすでにボロボロになっているケースがあります。
踏み抜き事故を防ぐための方法 ── 法令と実務の観点から
屋根上での作業には、法令上の義務があります。
労働安全衛生規則 第524条(スレート等の屋根上の危険の防止)
事業者は、スレート、木毛版等の材料でふかれた屋根の上で作業を行う場合において、踏み抜きにより労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、幅が30cm以上の歩み板を設け、防網を張る等踏み抜きによる労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
つまり、歩み板の設置と防網の設置は法的義務です。「ちょっと見るだけだから」では済みません。
実際に取るべき安全措置
厚生労働省および労働安全衛生総合研究所が推奨する安全対策を整理します。
① 事前調査・リスクアセスメントの実施 屋根に上る前に、建物の築年数、過去の修繕履歴、スレートの種類・状態を確認します。目視だけでなく、可能であれば地上や足場からの調査を先行させます。
② 歩み板(幅30cm以上)の設置 スレートを直接踏まないよう、歩み板を敷いてから作業します。歩み板の上を歩くことが鉄則です。
③ 仮設足場の設置 改修工事では、仮設足場を屋根床面から1,800mm以上の高さで確保することが推奨されています。足場があれば、万一踏み抜いても墜落を防げます。
④ 墜落制止用器具(安全帯)の着用 墜落のおそれのある箇所では、安全帯を必ず使用します。親綱の設置設備も事前に準備します。
⑤ 防網の設置 踏み抜いた場合に備えて、防網を張る対策も有効です。
⑥ 保護帽(墜落時保護用)の着用 作業に入るすべての者に徹底させます。
⑦ 作業者への教育・周知 送り出し教育と新規入場者教育を確実に実施し、安全な作業手順を全員に周知します。
発注者として確認すべきこととして、厚生労働省は以下を挙げています。
- 屋根工事の安全施工に十分な能力と実績がある業者かどうか確認する
- 工事契約前に、安全な施工方法の説明を業者に求め、法令を遵守した墜落防止対策が確実に行われることを確認してから契約する
- 安全性を阻害するような無理な工期・請負金額の設定を行わない
発注者側にも責任があります。安全対策のコストを削減しようとする契約が、結果として重大事故につながりかねません。
踏み抜きリスクを減らしながら改修する「リ・ルーフシステム」という選択
ここまで見てきたように、劣化したスレート屋根の調査・改修は「安全対策を整えたうえで実施する」ことが大前提です。
一方で、改修工事そのものに「踏み抜きリスクを下げる」性質を持たせることができれば、施工中の安全性も高まります。そこでSUK(スプレーウレタン・ウレア工業会)の「リ・ルーフシステム」をご紹介します。
リ・ルーフシステムは、断熱補強層(SGフォーム)と超速硬化ウレタン防水材(エバーコートSP-200)、遮熱トップコートを組み合わせた屋根改修工法です。防水・補強・断熱の三機能を一度に実現します。
施工後数秒で硬化 ── 安全に次の工程へ進める
超速硬化ウレタンは、吹き付け後数秒で硬化します。
通常の塗膜防水材では、乾燥・硬化に数時間から一日を要するため、その間は施工面を歩くことができません。しかし超速硬化ウレタンは、吹き付けた直後から人が乗ることが可能になります。
これは施工効率の問題だけではなく、安全性に直結します。施工済みの面がすぐに補強されるため、吹き付けた部分から順次、安全に歩行しながら作業を進めることができます。
スレート屋根の強度を補強
実証試験によれば、リ・ルーフシステムを施工したスレート板は、施工前と比較して最大荷重が約30%向上しています(曲げ試験:スレート板のみ 269N → リ・ルーフシステム施工後 347N)。
また踏み抜き検証では、老朽化したスレート板は両足を乗せた直後に破損しましたが、リ・ルーフシステムを施工したものは両足が乗っても破損せず、屈伸動作にも耐えることが確認されています。
改修後のスレートは、日常的なメンテナンス時の歩行に対して、より安全な状態を保ちます。
ロボット施工も可能
SUKでは、スレート屋根専用の吹付ロボットによる施工も対応しています(※)
このロボットは、経年劣化によって耐久性が低下したスレート屋根の上を走行できるよう、従来型(300kg以上)から約100kgへと大幅に軽量化されています。吹付部を本体側面に設置することで、ロボット本体が未補強のスレートの上を直接踏まずに施工できる設計になっており、屋根への荷重を最小限に抑えます。赤外線センサーによる自動停止装置、転倒防止装置も搭載されており、高い安全性を実現しています。施工速度は100㎡あたり約1時間と、人手による施工と比較して効率的です。
※なお、ロボット施工はすべてのSUK会員が対応しているわけではありません。ご希望の場合は、お問い合わせの際にその旨をお伝えください。対応可能な会員をご案内します。
リ・ルーフシステムの詳細については、こちらのページをご覧ください。
「まず調査を」、その前に安全の確保を
雨漏りや屋根の損傷が気になっているが、踏み抜き事故が怖くて調査できない。それは正しい危機感です。
スレート屋根の調査・改修には、法令に則った安全対策が不可欠です。調査・改修の両面でSUKはお役に立てます。累計施工面積36万㎡の経験から安全対策を徹底し、調査・施工を行っております。
まずは、専門家に屋根の状況をご相談ください
スプレーウレタン・ウレア工業会(SUK)では、160社以上のネットワークを活かし、全国の工場・倉庫を対象に屋根の診断・調査を承っております。
「雨漏りが気になっている」「屋根の状態を把握したいが、どこに相談すればいいかわからない」そうした段階からのご相談も歓迎します。改修の要否も含めて、専門家が現状をご確認します。
将来的な改修計画の第一歩として、まずは現状の把握から始めてみてはいかがでしょうか。施工品質に妥協しない、プロフェッショナル集団がお応えします。
参考資料
- 「波板スレート屋根工事における墜落災害の防止 ─基本となる安全対策や親綱・安全帯の使用方法について─」独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所/一般社団法人 全国建設業労災互助会
- 「スレート屋根の踏み抜き災害をなくしましょう」厚生労働省
- 労働安全衛生規則 第524条(スレート等の屋根上の危険の防止)
- スレート屋根用吹付ロボット紹介(株式会社アクトクリエイティブトラスト)